キリンソウ

鬱病と共に生きつつ寛解を目指す。ガジェットとアナログの両方で生活を良くしたい。

わたしと喫煙、という名の自傷

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嫌なことがあると、適当に煙草を買ってきて吸う。
銘柄は特に決めていない。目についた銘柄だったり、好きなバンドマンと同じ銘柄だったりする。

封を開けて一本取り出し、サッと火をつけて煙を吸い込む。
苛つきながら吐き出した煙からは、いつも父親と同じ匂いがした。

喫煙は嫌いではない。電子煙草もよく吸う。私にとって、どちらを選ぶかは臭いか臭くないかの違いくらいでしかないのだ。
今日手に取ったのはKOOLマイルドだった。もう故人となってしまった、敬愛するボーカリストが愛した銘柄だ。
いつもよりもスッとする空気が鼻に抜ける。しかし、その後に残るのは必ず、父親と同じ匂いだ。

私の父は愛煙家である。いつもキッチンでイライラと煙草を吸っていた。
父のセブンスターの香り、キッチンに一筋のぼる煙草のけむりは、家族に入った亀裂のように思い出される。
母は煙草を吸わない。私も妹も、未成年だったので当然吸わなかったし、成人してからも縁遠いものだった。

ただ一度だけ、実家でマイルドセブン スーパーライトを吸ったことがある。
成人したその日に、私が一番好きなギタリストと同じ銘柄の煙草を吸ってみようと思い、買ってきたものである。
そのときはたまたま、キッチンにいた母の目の前で初めての一本を口にした。
しかし、直後に母が私の喫煙を非常に嫌がったため、それ以降煙草を吸うことはなかった。

再度煙草に手を出したのは、実家を出てからである。
その頃にはもう、マイルドセブンはなくなってしまっていた。
それから特に銘柄を決めることがなくなったのである。
あの日も私はイライラしていた。コンビニで飲み物でも買ったついでに、適当に煙草を選んだのだと思う。
帰宅してすぐに、ベランダで一本煙草を吸った。やはりそこに残るのは、父と同じ匂いである。

喫煙は嫌いではないといった。しかし煙草をもみ消した後には、イライラした気持ちと自分への嫌悪感が渦巻く。
家を壊した父と同じ匂いをまとい、イライラに似た苦味が口の中に残る。
それなのに私は、また煙草に手を伸ばす。決して頻度は高くないものの、また煙草に手を伸ばす。
あるとき、私はふと気づいた。これはきっと自傷なんだ。ジリリと燃える煙草の火を、そのまま自分の体に押し付けてしまいたいほどに、私は自分の喫煙を自傷だと感じた。

そうでもなければ、もっともっと喫煙を楽しんでいることだろう。
イライラした日にだけ、自分を追い込むように煙草を吸ったりはしないはずだ。
煙草に逃げているようで、煙草に追い詰められている。
喫煙はやめるべきなんだろう。

そんなことを考えながら、それでもまた私は、もう一本の煙草に火をつける。
箱の中にはまだ、半分以上の煙草が残っていた。
ベランダからボーっと外を眺めながら、煙を吸っては吐き出すことをやめられない。
父もまた、煙草に逃げているようで、煙草に追い詰められていたのだろうか。思いを巡らせながら、またもう一本。

イライラが収まれば、残りの煙草を捨ててしまうこともある。
私の喫煙は非常に気まぐれだ。今回は一箱吸いきるのだろうか。
煙草を吸うたびに、救えなかった実家への思いを巡らせ、自分の心と向き合う。
私の体からはまだ、父と同じ匂いがする。